『股関節臼蓋形成不全については その他 の項目をご覧下さい』
変形性股関節症 一般論
この病気は股関節への血液循環が不十分であったり、関節を酷使したりして軟骨に変性が起こることによって、股関節が変形した状態です。変形性股関節症は特発性のものと続発性のものに別けられます。
特発性のものは、正常に発達した後に、成人以降に発症したものです。
続発性のものは先天性股関節脱臼や股関節臼蓋形成不全など、生まれつき股関節に問題があることがあります。
そのほかペルテス病、大腿骨頭壊死、大腿骨頭すべり症などでも起こります。
変形性股関節症は「痛みの原因=股関節が擦り減って変形していることだ」と考えます。
痛みは股関節だけに限らず、臀部、大腿部、あるいは下肢全体にわたって感じることがあります。痛みが続くと運動制限と関節の変形が起こり、股関節が硬くなって歩行が困難になります。筋萎縮(筋肉が痩せて細くなる状態)が起こり、筋力の低下が認められることもあります。
一般的な整形外科では筋力を鍛えたりストレッチ体操をすすめられたりすることが多く、一定の年令以上になって痛みが強いと手術をすすめられることがあります。
望クリニックでの考え方
変形性股関節症で来院されるほとんどの方は整形外科でレントゲンを撮り「股関節の軟骨が擦り減って変形しているために痛い」、つまり「痛みの原因=股関節が擦り減って変形していることだ」と診断されています。これは整形外科の常識的な考え方です。レントゲン写真を見ると分かるためほとんどの方はこの説明に納得されます。
しかし、望クリニックではこのように考えません。
「変形性股関節症の痛みは股関節の軟骨の擦り減りによる変形が直接の原因ではなく、多くは仙腸関節の機能障害が本当の原因です。従って、変形性股関節症と診断された方の股関節の痛みの多くはAKA-博田法で改善します」
変形性股関節症の方を治療する際に、AKA-博田法では痛む股関節にはほとんど触りません。股関節が痛い方でも骨盤にある仙腸関節を中心に治療していきます。股関節には触らず仙腸関節を正しく治療していくと、多くの場合股関節の痛みが良くなります。痛みが良くなった後にレントゲンを撮ると股関節は変形したままです。変形は痛みの直接的な原因ではないため、痛みを治すという意味で変形を治す必要はありません。このことからも股関節の変形は痛みの直接的な原因ではないことが分かります。
当院には変形性股関節症で手術が必要と診断された方がたくさん来院しています。そして、多くの方がAKA-博田法により、手術をせずに痛みが少ない状態をコントロール出来ています。変形性股関節症は手術で人工の関節に換えると多くの方は痛みが楽になります。しかし、術後痛みは良くなったが歩きにくくなるという方もいます。また、人工関節は耐用年数があるため、若い方はなかなか手術が出来ず、一定の年齢までは鎮痛薬やリハビリによって我慢していることが多いようです。
変形性股関節症の進行過程
- 日常生活動作や仕事中に何らかの原因で仙腸関節の機能障害が起こり、股関節が痛み始めます。この時点で股関節のレントゲン写真は多くの場合正常です(この時期に治療すれば完治することがあります)。
- 痛みが続くと股関節の軟骨が擦り減り始めます。レントゲンで変形性股関節症と診断されるのはこの時期からです。
- 痛みで普通に歩くことが難しくなったり、歩行時に腰が左右に揺れたりします。これにより仙腸関節への負担が増し、股関節の痛みや変形が進行します。(この時期になるとAKA-博田法で痛みは軽減しますが、完治は難しくなります。痛みが良くなっても定期的な治療(1~3ヶ月に1回程度)が必要になります。
AKA-博田法は股関節の痛みに対する保存療法のうち最良の方法と考えます。擦り減った軟骨が再生して元通りになることはありませんが、多くの場合痛みは良くなります。痛みが良くなると、関節がより硬くなることを比較的防ぐことが出来ます。
治療は2-4週間に1回行います。変形が進行し歩行時に腰が揺れる方は完治が難しくなります。AKA-博田法を受診して痛みが落ちついた後も定期的な(1~3ヶ月に1回の頻度)治療が必要です。これにより痛みをより少なく抑え、変形の進行を抑えておくことが出来ます。
筋力増強訓練やストレッチ体操について
一般的な整形外科では、擦り減って変形した股関節への負担を減らすために股関節周囲の筋力をつける運動を勧めることがあります。また、変形して硬くなった股関節を柔らかくするためにストレッチ体操を勧めることもあります。こういった運動は理論的には正しい印象を受けるため、真面目は方ほど真剣に取り組むようです。当院の患者さんのなかにもそういった運動を一生懸命取り組んできた方がたくさんいらっしゃいます。
しかし、当院では積極的な筋力増強訓練やストレッチ体操はしないようにお願いしております。筋力が強く、関節が柔らかいことは良いことですが、痛みをこらえてこういった運動をすると、長期的には少しずつ症状が悪化することがあるためです。
まれに運動をすると一時的に症状が軽減することがありますが、これは一時的に股関節周囲の筋肉が緩んだためです。一時的であっても痛みが軽減すると患者さんは運動(労働)量が増える傾向があります。しかし、痛みの根本原因である仙腸関節の機能障害は治っていないため、しばらくすると元の痛みに戻ります。そして、運動(労働)量が増えたため結果的に痛みの根本原因である仙腸関節への負担が増し、長期的にみると少しずつ悪化していくこともあるのです。
つまり良いと思って取り組んだことが、逆に悪化に拍車をかけてしまいかねないのです。筋力増強訓練やストレッチ体操は、何ともない方が「予防」で行うと有効かも知れません。しかし痛くて病院に行くような方に必要なのは予防ではなく「治療」です。治療の観点からいうとこういった運動は根本から治すという意味で問題があり、おススメできません。
変形性股関節症に限らず整形外科の痛みやシビレに対する考え方は予防と治療が混同して考えられていることが大きな問題です。そのため本来は治療が必要な方に正しい治療をせず、必要のない筋力増強訓練やストレッチ体操をすすめているために、いつまで経っても治らないという現状があるのです。
当院では変形性の股関節症・股関節臼蓋形成不全・変形性膝関節症といった整形外科の痛みやシビレの症状に対してはAKA-博田法で治療して、あとは極力安静にしていただくようにお願いしています。特に仙腸関節に炎症を起こしている場合は安静にしていることが必要です。
痛みをより根本から治すことで、患者さんが手術や注射をしないで日常生活を楽しんでいただけることを目標に取り組んでいます。
中高年の方で筋肉が弱って歩けなくなるのでは?と心配している方へ
先にも述べたとおり、整形外科の痛みに対し筋力トレーニングやストレッチ体操をした方が良いと考えている方がたくさんいらっしゃいます。日々の臨床でも「たくさん歩いた方がいいのですか?」「水中歩行はどうですか?」「硬くなった関節をストレッチでほぐした方がいいですか?」「腹筋や膝・お尻の筋肉を鍛えた方が良いのですか?」といったご質問を受けます。
痛みやシビレのあるときに筋肉を鍛える運動をしても筋肉は効率よく付きません。ストレッチ体操もその効果は一時的で、長期的にみるとかえって関節が硬くなることもしばしばです。何よりこういった運動は仙腸関節へ負担となり痛みやシビレも治りが悪くなることがあります。
つまり、積極的に運動をすることは、「筋肉を付ける」「関節を柔らかくする」「痛みやシビレを治す」といったいずれの目的にも良い結果に至らならないのです。
日常生活で必要な筋力は、特別な状況を除けば普通の生活で保つことができます。わざわざ「運動」をする必要はありません。
そもそも、筋力トレーニングやストレッチ体操で治るのであれば、病院はいりません。整形外科に行く代わりにスポーツクラブに行けば良いということになります。しかし、スポーツクラブでこういった病気が良くなることが期待できないのは言うまでもありません。多くの方は自分に何か努力を課すことでより良い結果が得られると考え、一生懸命運動をしようとしますが、それらが「治る」という意味で正しいとは限りません。
こういった思い込みは非常に強固です。例えばTV番組などで関節痛の番組が放映された後は必ずといっていいほど患者さんから質問を受けます。同じ方に何度も説明することもしばしばです。
まずはAKA-博田法で正しく治療して、あとは安静にする。そしてしっかり治すか一定程度まで改善してから負担にならない程度に徐々に運動をしてゆくことが良いでしょう。
実際に治療を受けた患者さんの症例
22歳 女性
来院までの経過
平成4年頃から歩行時(特に階段昇降時)に左の股関節が痛み始め、徐々に痛みが強くなり近くの整形外科を受診。変形性股関節症と診断される。
他院での診断 | 変形性股関節症 |
---|---|
他院での治療 | 温熱療法、湿布剤、マッサージ等(約2年間)をしていた。 痛みが我慢できなくなったら手術と言われている。 |
初診時 (平成9年) の症状 |
左股関節の痛み。歩くと痛みが強くなり、歩行に支障があった。安静にしていると痛みは楽になる。 |
自覚症状の経過
AKA-博田法初回 | 治療後、明らかに歩行時の痛みが楽になりました。 |
---|---|
3回目 | 治療後は痛みが楽になるが、少し無理をするとまた痛みが出てきます。 |
5回目 | 歩くと相変わらず左右にふらつきますが、痛みはそれ程ありません。日常生活で困る事もありません。 |
現在 | その後、平成9年からAKA-博田法を1月に1回の割合で行い、手術をせずに痛みなく生活できている。 |
AKA-博田法で治療することにより股関節の痛みは軽減、軟骨の再生も見られました。
診断
仙腸関節機能障害とそれによる変形性股関節症
(痛みの直接的な原因は股関節の変形ではなく、仙腸関節を始めとする関節の機能障害です)
考察
この方は手術したくないという希望が強かった為、AKA-博田法を継続しました。現在、治療を始めて13年目になりますが、痛みは少ない状態で抑えられており日常生活に支障はないそうです。股関節には顕著な変形があり歩行時に腰が揺れるため、仙腸関節に負荷がかかり繰り返し機能障害を起こします。
こういった場合、定期的にAKA-博田法で治療する必要があります。AKA-博田法で痛みを少なく抑えていると股関節の変形が進みにくい方が多いことがわかってきました。なかには稀に股関節の軟骨が再生していく患者さんもいらっしゃいます。この症例の方は徐々に股関節の軟骨が再生してきました。
66歳 女性(Aさんと表記)
来院までの経過
平成9年頃から右の股関節痛出現。近所の整形外科を受診し、両側共に変形性股関節症と診断された。リハビリと鎮痛薬を飲んだが良くならない為、総合病院の股関節専門外来を受診。再度、変形性股関節症と診断された。鎮痛薬、リハビリ(筋力増強訓練)等を行ったが良くならない為手術を勧められた。手術はしたくないと思い、平成14年に望クリニック受診。
他院での診断 | 変形性股関節症 |
---|---|
他院での治療 | リハビリテーション(筋力増強訓練)、鎮痛薬等を行ったが効果がない。手術を勧められている。 |
来院時の症状 | 右股関節の痛み。痛みのために歩行に支障がある。 |
自覚症状の経過
AKA-博田法初回 | 痛みは軽くなりました。歩くときに右足が出やすくなりました。 |
---|---|
3回目 | AKA-博田法を受けると股関節の痛みは軽くなります。手術はしたくないので続けてみようと思います。 |
5回目 | 治療を始めてから痛みがひどくなることはなく、日常生活も問題ありません。 |
現在 | その後、平成24年5月までAKA‐博田法を1~2カ月に1回の割合で行っている。 希望通り手術をする事なく、趣味のゴルフも楽しめている。 |
診断
仙腸関節機能障害とそれによる変形性股関節症
(痛みの直接的な原因は股関節の変形ではなく、仙腸関節をあ始めとする関節の機能障害です)
考察
Aさんは、AKA‐博田法を受けたことで変形性股関節症の痛みを抑える事ができました。その結果、平成14年から24年まで手術をすることなく日常生活を送れています。
実は、Aさんには変形性股関節症で手術を勧められている友人(以下、Bさん)がいました。Bさんは何事にも積極的に取り組む方で、医師から勧められるままに股関節を人工関節に換える手術を受けました。手術後、困っていた痛みは良くなりましたが、人工関節に換えた影響で歩きにくくなり、趣味のゴルフはできなくなってしまいました。現在、Bさんは杖をついて歩いています。
勿論、人工関節の手術をすると必ずBさんのようになるわけではありません。しかし、手術で良くなるという保証はありません。手術で良くなるかは手術をしてみないと分からない部分があるのです。仮に良くならなくても1度手術をすると、元に戻すことが出来ません。
また、手術には血管障害、神経障害、脱臼、感染症、血栓性静脈炎、肺塞栓症等の合併症があります。長期的には人工関節の緩みや破損、脱臼、感染症等の合併症の危険もあります。大学病院を始めとする整形外科は、変形性股関節症に対して手術以外に効果的な治療手段がありません。そのため、痛みを訴え変形が見つかると手術を勧めます。しかし、Bさんのようなケースもあるため、手術の決定は一定期間AKA-博田法を受診してからでも遅くはありません。
Bさんは、手術の前にAKA‐博田法を受けていれば良かったとAさんによく話をするそうです。BさんがAKA‐博田法を受けていれば手術を受けずに済んだかは分かりません。しかし、望クリニックに来院される変形性股関節症の方の多くは、手術をすることなくAKA‐博田法により痛みを少なくコントロールできています。
以上の事から、望クリニックでは変形性股関節症の痛みで苦しんでいる方や、手術を勧められて迷っている方は、まずAKA‐博田法を受けることをおススメします。手術は一定期間AKA-博田法を受診してから決めても遅くはありません。AKA‐博田法により、痛みをコントロールできれば手術をしないで済むだけでなく、『いつかは手術をしなければいけない』という不安からも解放されるでしょう。