腰椎椎間板ヘルニア 一般論
背骨を構成する1つ1つの骨を椎骨といいます、そのうち腰の部分にあるものが腰椎で、腰椎と腰椎の問にあってクッションの役目をしているのが椎間板です。椎間板の中心には髄核と呼ばれるゼラチン状のものがありますが、加齢とともに弾力性を失います。
この椎間板の周辺部分である線維輪の亀裂から、椎間板の中心部分である髄核が脱出し、神経を圧迫して、腰痛やお尻の痛み、足先に放散する痛み、シビレ、足に力が入らなくなった状態(いわゆる根性坐骨神経痛)を腰椎椎間板ヘルニアと言います。
人口の1%程度に認められ、20~40歳代に多く、男性が女性より2~3倍多く、原因は、加齢的な変化に加え、軽微な外傷(捻挫や打撲など)や長時間一定の姿勢を強いる作業、スポーツ傷害などが誘因となって発生します。中には、重いものを持った際や「くしゃみ」などをきっかけに発症することもあります。
望クリニックでの考え方
当院には腰椎椎間板ヘルニアと診断されて手術をしたが症状が良くならなかったり、元の症状は良くなったが手術前とは違う場所に症状が出てきた、といった方が多数来院されます。これは、現在の整形外科に「関節の機能障害が痛みやシビレ等の症状を起こす」という概念がないためです。関節の機能障害はMRI等の静止画像ではわかりません。痛みの原因がMRIに写るヘルニアであれば手術をすれば治癒します。しかし原因が関節の機能障害の場合は手術をしても痛みが治る事はありません。
当院では腰椎椎間板ヘルニアと診断された方に対し、その症状の原因が本当にヘルニアなのか?それとも関節機能障害なのかをAKA-博田法で再診断しています。
その結果は以下の通りです。
- ①仙腸関節を主とした関節の機能障害が原因(全体の85%程度)
- →AKA-博田法で治療する。
- ②本当に腰椎椎間板ヘルニアによる神経の障害が原因(全体の10%程度)
- →手術を専門とする医療機関に紹介し手術をお願いする。
- 主な紹介病院:広尾日本赤十字病院、東邦大学病院等
- ③精神科的な疾患、その他
- →痛みを専門とする精神科の専門医に紹介。
- 主な紹介先:高田馬場新沢ビルクリニック
つまり腰椎椎間板ヘルニアと診断された痛みやシビレの大部分は関節機能障害が原因です。
望クリニック 症例
この事からヘルニアと診断された方は、手術をする前に必ずAKA-博田法で再診断する必要があると考えています。
症例
S40 女性 主婦
来院までの経過
平成16年にぎっくり腰をして以降、年に数回ぎっくり腰を繰り返し慢性的な腰痛に悩まされていた。初めての時は整形外科でぎっくり腰といわれて牽引や鎮痛薬による治療を受けた。しかし、良くならないため脊椎専門の病院を受診したところ、腰椎椎間板ヘルニアと診断され手術を勧められた。手術に抵抗を感じ、まずは神経ブロックと鎮痛薬による治療を受けた。神経ブロックの効果は1日位しか持たず2,3日すると痛みが再発する。手術をしないと治らないといわれているが、手術の前に何か治療法はないかと思って色々な治療を試している。整体や鍼治療、カイロプラクティックのような治療も受けていたがいずれも1,2日位痛みが楽になる程度で、すぐにいつもと同じ痛みに戻ってしまう。
平成20年にかなり強い整体治療を受けてから両方の股関節に痛みが出始め、歩きにくくなっしまった。
他院での診断 | 近所の整形外科:ぎっくり腰、急性腰痛症 脊椎専門病院:腰椎椎間板ヘルニア |
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他院での治療 | 牽引、鎮痛薬、神経ブロック 他に整体、鍼、カイロプラクティックの様な民間療法も受けている。 |
来院時の症状 | 腰痛と両股関節痛 歩けないわけではないがつねに足が出しにくい感じがして、30分位の歩行で痛みが増し歩けなくなる。安静時にも痛く、夜眠れない事もある。お風呂などで温めると痛みは楽になる。麻痺など神経障害を疑う所見は無し。 |
自覚症状の経過
AKA-博田法 初回後 |
歩行時に足が出しやすくなりました、腰の痛みも少し軽い感じがします。 |
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3回目 | 前回後1週間とても調子良かったのですが、中腰の姿勢で掃除をしたところ、また腰痛がでてきました。 |
5回目 | 最近、掃除をしても腰痛が出なくなってきました。歩いても以前のように股関節が痛くならなくなりました。 |
9回目 | 日常生活に困らなくなりました。時折痛くなることはあるが以前のようではなく、日常生活動作で困ることもないとのこと。 |
考察
AKA-博田法により症状が改善したことから、原因は腰椎椎間板ヘルニアではなく仙腸関節の機能障害であったと考えられます。仙腸関節は中腰をした際に機能障害を起こしやすくなります。ぎっくり腰も同様です。この方は症状改善後に再度MRIを撮りましたがヘルニアは治療前のMRIと変わりない状態でした。つまりヘルニアはあるがそれは痛みの原因ではなかったのです。手術をしても治る事はなかったでしょう。
また、この方は、整形外科以外に整体やカイロ等の様々な民間療法を受けていました。いずれも治療後、数日は楽になり効果がありました。これは整体等で痛みの根本原因である仙腸関節の機能障害がわずかに改善したことが推測出来ます。
しかし、関節の機能障害はわずか数ミリの動きの異常です。関節は強い力や勢いをつけて動かすと、新たな機能障害を起こす可能性があります。この方は平成20年に強い力で行う整体治療を受けてから股関節が痛くなりました。AKA-博田法で治療したところこの痛みも良くなったことから、整体治療で関節を強く動かしたことで機能障害を起こしたと推測できます。
S34 女性 看護師 手術歴あり
来院までの経過
中腰姿勢の仕事が多いため、時々腰が痛くなることがあった。H19頃より仕事が忙しくなり、左の腰からふくらはぎにかけての痛みとシビレが出現した。整形外科では5番目の腰椎椎間板ヘルニアと言われ、投薬治療と神経ブロックをしたが良くならなかった。意を決してレーザーによる手術を受けたが痛みやシビレは手術前と全く変わらなかった。痛みが酷くて仕事を休んでいる。
他院での診断 | 腰椎椎間板ヘルニア |
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他院での治療 | 鎮痛薬等の薬物治療や神経ブロックをしたが効果なし。 レーザー手術も効果なし |
来院時の症状 | 歩行は1-2分程度、立位は10-15分程度で腰が痛くなるが歩けなくなる程ではない。 仕事後は特に痛みが強くなっていた。現在は休職中。 筋力低下、麻痺などの神経障害はなし。来院時の症状は下図の通り。 |
自覚症状の経過
AKA初回後 | 痛みは変わりませんでした。 |
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2回目 | 前回はあまり変化を感じなかったのですが今回は腰の痛みが少し楽になった感じがします。 |
5回目 | 治療した後、数日間左下肢の痛みがとても楽でした。全体的に楽になってきた感じがあります。 |
7回目 | AKAをする前と 比べて半分くらい症状がなくなってきました。 |
現在 | その後もAKA‐博田法を続け、半年後には仕事に復帰する事が出来た。しかし看護師の仕事は仙腸関節に負担がかかりやすい為、疲れると痛みが強くなるとの事。 そのため、現在でも月に1回の治療を続けている。 |
考察
AKA-博田法を受ける前に手術をしてしまった方です。手術で良くならなかったのは、痛みの原因はヘルニアではなく、仙腸関節の機能障害であったためです。
手術の前にAKA-博田法を受診していればこのように無駄な手術は防げたでしょう。
通常、手術をするとその刺激で関節が硬くなりAKA-博田法で治療しても改善するのに長期を要する傾向があります。
この方の場合、強い症状は比較的順調に改善しました。
しかし、手術の影響で仙腸関節が硬くなっているのに加え、仕事が仙腸関節に大きな負担になる為、症状は著しく改善されましたが完治には至りませんでした。
腰痛、左の足首と親指がシビレて力が入らなかった症例
20代 女性
来院までの経過
H23年9月にぎっくり腰をして以降、腰痛が出現。
H23年10月より左足首と親指にシビレが出現、力が入らずに反らすことが出来なくなり、都内の大学病院を受診。MRIで腰椎の4番目と5番目の間の椎間板ヘルニアと診断。このままでは麻痺が残ると言われ手術を勧められる。
できれば手術を避けたいと思い、他に治療法がないかとH23年11月、当院を受診。
他院での診断 | 腰椎の4番目と5番目の間の椎間板ヘルニア |
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他院での治療 | 鎮痛薬等の薬物治療や神経ブロックをしたが効果なし。 早急に手術を行わないと麻痺が残ると言われている。 |
来院時の症状 | 腰、左膝はじっとしている時は痛まず、温めると楽になり冷えると悪化する。 左足首と親指には力が入らず、シビレた感じがする。いずれも症状は左側のみ。足のシビレた感じや力が入らない状態は常にあり、感覚も鈍い。 左足首と親指に力が入らず、上に反らす事ができないため、つま先を挙げた状態で歩く(踵歩き)ことができない。 症状は下図の通り。 |
自覚症状の経過
AKA-博田法 | |
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初回後 | 「少しだけ左足首、親指に力が入り、そり返す事ができます。しびれは変わりません。腰の痛みは少し良いようです」 |
治療後 | 左足に力が入るようになったため、関節機能障害がこの症状に関係していると考えた。しかし、治療後も改善しきれていない症状と、MRIの所見が合致していた事から、この時点では関節機能障害のみの可能性と、関節機能障害とヘルニアの両方が原因である可能性があった。 |
AKA-博田法 2回目 (2週間後) |
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治療前 | 「前回、治療を受けてから腰痛と膝の痛みはあまり感じなくなってきました。左の足首と親指には力が入るようになってきました。良くなっている感じがあります。でもこの間○○大学で筋電図をしてきましたが、やっぱり神経の障害が原因と言われました。私の足の力が入らない原因は一体何なのでしょうか。」 |
治療後 | 「左の足首も親指も大分力がはいります。治療前に比べて明らかに違います。でもまだ正常の足に比べれば完全ではありません」 |
治療後 | 明らかに足に力が入るようになったため、最も考えられる原因は関節機能障害でした。治療後も残る症状は、関節機能障害が治る途中の為であり、このままAKAを続ければ治癒していくと考えられた。しかし、筋電図で神経障害という結果が出た事と、AKA後も力が入らない状態の回復が完全ではない事から、この時点でも神経障害は否定できなかった。その為患者と相談し、AKA-博田法は続けながら前医とは別の脊椎の専門病院に紹介し、手術適応か診察してもらう事とした。 |
AKA-博田法 2回目の 2週間後 |
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ご本人より電話 | 「あれから、何日かして左足の力が完全にはいるようになりました。今は、腰痛も膝の痛みもありません。治ったみたいです、なので紹介された脊椎専門の病院にはいきませんでした。」 |
すべての症状がなくなり足にも力が入るようになった為、治療終了とした。 |
考察
AKA-博田法のみで全ての症状が良くなったため、関節機能障害が原因であったと考える。足に力が入らない状態(以下、筋力低下)は、AKA-博田法で関節機能障害を治療すると改善するものがあります。この場合、神経が原因で起こる筋肉の麻痺とは異なるものです。
関節機能障害は手術で治療できず、神経障害はAKA-博田法では治療できない為、治療も前者はAKA-博田法、後者は手術となります。一般の整形外科医は関節機能障害が原因で筋力低下が起こることを知らないため、神経障害と診断し手術します。
AKA-博田法を知らないと、関節機能障害が原因で起こる筋力低下は見逃されてしまうのです。
特に本症例のように、筋力低下所見とMRI、筋電図の所見が一致している場合、神経の異常が原因である可能性が非常に高くなります。しかし、MRI等の画像所見と痛みやしびれ等の自覚症状が一致しないことが多々あります(HP:AKA-博田法と画像診断参照)。また、筋電図は優れた検査ですが、その診断は熟練を要するため検者により結果が左右されます。このケースでは患者さんからのお話のみで詳細が不明なため、前の病院の診断結果について慎重にならざるを得ませんでした。
関節機能障害によって筋力低下が起こる事は、AKA-博田法に熟練した医師以外にはあまり知られていません。手術をするのとしないのでは、患者さんの負担は大きく異なります。筋力低下を伴う患者さんを診療する時は、その原因が関節機能障害か神経障害かをAKA-博田法で診断する事が必要です。
61年 男性
患者さんからの来院時までの経過
H20年から右腰から下肢にかけての痛みとシビレが出現。総合病院では第5腰椎椎間板ヘルニアと診断され投薬治療を受けたが改善せず、大学病院も受診した。
大学病院での診断も腰部脊柱管狭窄症とのこと。治すには手術しかないと言われている。
テニスとゴルフが趣味だが最近は痛みの為ほとんどしていない。
他院での診断 | 腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症 |
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他院での治療 | 鎮痛薬、血流改善薬等の薬物治療。 |
来院時の症状 | H20年初診 寝起きが腰痛辛い。安静時は痛みなし。 歩行は100m程で痛みが強くなり休んでしまう。休むとまた歩けるようになる。 |
自覚症状の経過
AKA-博田法初回 | 腰から下肢にかけての痛みが軽いような気がします。 |
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3回目 | やった後、少し痛みは楽ですが次の日には元に戻ります |
5回目 | 治療後、3,4日は楽で、200m位歩けます。 その後は元に戻ります |
10回目 | 1km歩けます。日常生活は困りません。 |
15回目 | ほとんど症状はないです。 そろそろ趣味のゴルフ、テニスを始めてみようと思います。 |
現在 | その後、趣味であるテニスとゴルフを徐々に再開。運動後に痛みは少し出るが以前の様な酷い痛みはない。 1-2ヶ月毎に治療している。 |
望クリニックでの診断
仙腸関節の機能障害
考察
この方も仙腸関節の機能障害が痛みの原因でした。おそらくゴルフやテニスで、機能障害が起きたのでしょう。痛みを我慢して運動をしていたため関節の炎症は強く、AKA-博田法に反応して症状が改善するまでに期間を要してしまいました。
炎症が強いとAKA-博田法に反応するまでに期間を要する傾向あります。その為、治療当初あまり効果を感じなくても最低5回(約3ヶ月)程度はAKA-博田法を行い、関節機能障害が痛みの原因かどうかを診断する必要があります。